金融M&Aのコアはスタッフ

金融商品取引業のM&Aで大変なのは、ライセンスを保有している会社を買収すればそこで終わりではないことです。買収先の業務内容(販売しているファンドの種類の変更や投資顧問のサービス内容の変更等を含む)買収後に実際に行いたい業務を開始するためには、業務方法書の変更であったり変更登録であったり、行政手続きをして、当局に業務開始を認めてもらう必要があります。

その場合に、厳しく問われるのが「人的構成」です。この人的構成は登録要件ですので、例えば買収後に全役職員が辞めてしまって、後任に金融経験者が一人もいなくなってしまった、ということになると、最悪の場合には登録取り消し(ライセンスはく奪)の行政処分を受ける可能性があります。

この人的構成は、非常勤の名ばかりの金融OBの知り合いや、弁護士や公認会計士に委託して充足することはできません。よく、買収後の内部監査は顧問税理士に依頼するだとか、コンプライアンスは弁護士に委託するという話を聞きますが、そんな甘い世界ではありません。

また、他の会社でフルタイムで働いている方も常勤出来ませんので不可です。ただし、基本的には年齢は関係しないので、経験が十分にある方であれば、高齢の方で問題ありません。

そのため、スタートアップ、スモールビジネスの会社では、人件費の関係から比較的高い年齢層で、役職員を多く採用する例も見られます。

いずれにせよ、基本的に、行おうとする種別の業務をやったことがある、金融商品取引業者(証券、FX、投資顧問、第二種金融商品取引業等)又は登録金融機関(銀行、信金等)のOBをフルタイムで勤務させる必要があります。そうした方が買収側のスタッフにいない場合には、業種により年間数百万~数千万円程度のスタッフの人件費も込みで、事業計画を立てる必要があります。

必要になる人数

投資助言・代理業ですと、2名程度で人的構成を満たすことができるケースが多く、内容によっては1名でも認められることがあるくらいです。よって、例えばシステムトレードだとか、株式投資顧問だとかで、金融の職歴のない方しかない事業会社であっても、買収後も比較的低い人件費負担で、投資助言・代理業に参入できる余地があります。

これに対して、第二種金融商品取引業や投資運用業、第一種金融商品取引業で必要になる人数はこれよりも多くなります。不動産信託受益権を専ら取り扱う第二種金融商品取引業者の場合には、原則として営業、コンプライアンス、内部監査に、金融商品取引業の経験及び宅地建物取引主任者の資格を保有する者が必要になります。

ファンドの第二種金融商品取引業の買収のケースでは、4人~7名程度(うち常勤3名以上)の経験者を確保することが多くなっています。

投資運用業では、総数4名~7名程度(うち常勤3名~5名程度)、第一種金融商品取引業では、総数6~7名以上(うち常勤5名以上)くらいが、買収後に求められる経験者数の感覚となります。

実際の業務内容や経験者の質によっても、このあたりは大きく異なりますので、当社が事業者様の買収を支援する場合には、連携する経験豊富な弁護士や行政書士からも意見を頂きつつ、あらかじめ必要な人間を揃えるためのアドバイスをさせていただきます。

実務上はコンプライアンスが特に重要

M&A後にスムーズに事業を継続または新規事業を開始するには、コンプライアンス担当者が非常に重要になります。経験豊富で、当局との折衝に慣れた方であれば問題ないのですが、ここにあまりコンプライアンスの経験がない方を配置したり、名ばかりで実際には業務をしない方、するつもりがない方を配置することは、非常にリスクがあります。

社長が誰か、オーナーが誰かというのと同じくらい重要な要素になりますので、営業や内部監査よりも、まずはコンプライアンス担当者を優先して探すことをお勧めします。